生成AI導入前の業務棚卸しガイド

先にツールを決めず、日常業務を作業単位に分けます。効果を確認しやすく、扱う情報と誤りの影響を管理できる作業から試します。

最終更新:2026年7月13日

「AIを導入する」ではなく「どの作業を改善するか」を決める

生成AIサービスを契約しても、対象業務、入力できる情報、人による確認、成果の測り方が決まっていなければ、利用者ごとに使い方が分かれます。まず現在の業務を一覧にし、負担の原因と作業の流れを確認します。

生成AIに向くのは、業務全体ではなく、その中にある文章整理、分類、要約、案の作成などの一部作業であることが多くあります。判断や承認まで一度に自動化せず、補助できる作業単位で検討します。

業務棚卸しで確認する4つのこと

負担

時間がかかる、頻度が高い、担当者が不足する、手戻りが多い作業を把握します。

AIが補助できる部分

情報整理、文章の下書き、比較、分類など、入力と出力を説明できる作業を探します。

リスク

個人情報・機密情報、誤りの影響、権利、外部公開、重要判断の有無を確認します。

確認方法

誰が何を正しいと判断し、AIを使わない場合と品質・時間をどう比較するか決めます。

時間が長い業務でも、入力情報を外部サービスへ渡せない、正誤を確認できる人がいない、誤りの影響が大きい場合は、最初の試行対象にしません。

業務棚卸しシートの項目

項目記入する内容
部署・担当作業を行う人、確認・承認する人
業務名「広報」ではなく「イベント告知文の初稿作成」など具体的な作業
目的・成果物何のための作業で、最終的に何を作るか
頻度・件数毎日、毎週、月何件、繁忙期など
作業時間1件あたりの時間、月間合計、待ち時間
入力情報公開情報、社内資料、顧客情報、画像、表、音声など
現在の手順情報収集、作成、確認、承認、公開・送信までの流れ
困っていること時間、属人化、品質差、転記、確認漏れ、手戻り
誤りの影響社内修正で済むか、顧客・契約・安全へ影響するか
確認方法原典、計算、担当者、承認者など、正誤を判断する方法
試行候補AIに補助させる一部分と、人が行う部分

業務名を作業単位へ分解する

「問い合わせ対応をAI化する」のような大きな単位では、できることと危険なことが混ざります。現在の流れを分解し、各作業で扱う情報と判断を確認します。

01

受け取る

メールやフォームを受信し、問い合わせの種類と緊急度を確認する。

02

調べる

商品情報、顧客状況、社内ルール、過去の対応を確認する。

03

下書きする

回答に必要な項目を整理し、返信案を作る。

04

確認・承認する

事実、価格、契約、表現、送信先を担当者が確認する。

05

送信・記録する

顧客へ返信し、対応内容と次の作業を記録する。

最初は、個人情報を除いた質問例から回答案の構成を作るなど、範囲を限定します。顧客情報との自動連携や自動送信は、権限、記録、停止方法を含む別の検討が必要です。

試行する業務の優先順位

評価軸始めやすい状態慎重に判断する状態
頻度・時間繰り返し発生し、試行前後を比較できる年に数回で、毎回条件が大きく異なる
入力情報公開情報、架空データ、利用許可を確認した情報個人情報、顧客秘密、認証情報、未公開情報
正解の確認原典や担当者があり、出力の良否を判断できる専門家でも判断が分かれ、根拠を確認できない
誤りの影響社内の下書きで、公開前に修正できる契約、採用、評価、健康、安全、顧客対応へ直接影響する
人の確認確認担当と承認手順を決められる大量出力を人が確認できず、そのまま使う前提
効果時間、修正回数、品質などを測定できる目的が「AIを使うこと」になっている

候補を点数化する場合も、合計点だけで決めません。入力禁止情報や重大な判断を含む業務は、効果が大きくても事前承認や別の環境が必要です。

棚卸しの記入例

作業AIで試す部分人が確認する部分
会議メモ整理個人・機密情報を除いたメモから論点とタスク候補を整理決定事項、担当者、期限、発言の意味
WEB記事の下書き社内で決めた企画書から構成案と初稿を作成一次情報、経験、著者、固有名詞、権利、公開判断
社内マニュアル検索承認した環境で対象資料から該当箇所の候補を提示最新版、例外条件、実際の業務への適用
商品説明の案確認済み仕様から対象者別の表現案を作成仕様、表示、法令、誇大表現、掲載媒体との整合

実際の試行では、利用サービスの契約とデータ取り扱いを確認し、自社の利用ルールに従います。

小さな試行計画を作る

01

対象と範囲を決める

一つの部署、一つの作業、限定した件数から始めます。

02

利用条件を決める

承認ツール、アカウント、入力可能な情報、保存場所を決めます。

03

基準を記録する

AIを使う前の作業時間、品質、修正、担当者の負担を確認します。

04

手順と確認者を決める

入力、指示、出力確認、承認、記録、問題報告の流れを作ります。

05

限定期間で試す

件数または期間を決め、うまくいった例と失敗した例を残します。

06

継続・修正・中止を判断する

時間だけでなく、品質、リスク、利用者の負担を比較します。

導入効果を測る項目

時間1件あたりの作成・確認・修正時間、月間合計
品質誤り、抜け、表記差、差し戻し、利用者・顧客からの指摘
処理量対応できた件数、待ち時間、未処理件数
利用状況利用者、利用回数、使わなかった理由、質問内容
リスク入力ミス、誤公開、権利・情報管理上の問題、ヒヤリ事例
費用サービス利用料、設定・教育・確認に必要な時間

IPAの導入・運用ガイドラインでも、業務品質などの定性的な目標と、効果測定に使える定量的な目標の両方を検討することが示されています。短縮時間だけでなく、確認作業が増えていないかも含めて測ります。

生成AIの業務棚卸しでよくある質問

全部署を一度に棚卸しする必要がありますか?

最初は利用意欲があり、確認しやすい部署から始められます。共通の記録項目を使い、試行で得た判断基準を他部署へ広げます。

作業時間が長い業務から選べばよいですか?

時間に加え、入力情報、誤りの影響、確認可能性を見ます。効果が大きくても重大な判断を含む業務は、最初の対象に向かない場合があります。

生成AIで完全自動化できる業務を探すべきですか?

まずは人が行う業務の一部を補助し、品質とリスクを確認します。外部送信やシステム操作まで自動化する場合は、権限、ログ、例外処理、停止方法を別途設計します。

試行して効果がなかった場合は失敗ですか?

対象作業、指示、入力情報、確認方法のどこに問題があったかを記録できれば、次の判断材料になります。効果がない業務へ利用を広げないことも重要な結果です。

参考情報

自社の業務から小さな試行候補を選ぶ

現在の作業時間、情報、確認方法を整理すると、一般的な活用事例を自社の業務へ当てはめやすくなります。